ニッシン工業便り第73号

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工場やクリーンルーム、病院、大型の商業施設。こうした建物の空調の心臓部として動いているのが「エアハンドリングユニット(AHU)」です。空調機という言葉は知っていても、箱の中で空気に何が起きているのかは、なかなか目にする機会がありません。この記事では、産業用空調機器をつくるメーカーの立場から、AHUの仕組みと構成を「空気の通る順」に沿って、身近なたとえを交えながら解説します。設備のご担当者や、これから空調設計を学ぶ方の入口としてお読みください。

1. エアハンドリングユニット(AHU)とは

エアハンドリングユニット(Air Handling Unit、略してAHU)は、取り入れた空気をろ過し、冷やしたり温めたり、湿度を整えたりしたうえで、ダクトを通して各室へ送り届ける空調機です。日本語では「空気調和機」「エアハン」と呼ばれることもあります。家庭用エアコンが部屋の中で空気を循環させるのに対し、AHUは機械室や屋上に置かれ、建物のいくつもの部屋へまとめて空気を供給するのが特徴です。

AHUの役割は、たとえるなら「空気の調理場」です。食材(外気)を洗い(ろ過)、味つけ(温度と湿度の調整)をして、料理(快適な空気)をお客さま(各室)へ配膳(送風)する。中に入っている部品は別々でも、ねらいはひとつ、「その部屋にちょうどよい空気をつくって届けること」です。

エアハンドリングユニットの役割を調理場にたとえた図。食材を洗い、味つけし、配膳する流れが、空気のろ過・温湿度調整・送風に対応している

2. 空気の通る順 ― 外気から各室まで

AHUは、空気がどの順番で部品を通るかをたどると理解しやすくなります。代表的な並びは次のとおりです。

外気(OA)→ フィルタ → コイル(熱交換器)→ 加湿器/ヒーター → 送風機 → 各室へ(給気:SA)

まずフィルタでホコリや粉じんを取り、コイルで空気を冷やす・温める(冷やすときは同時に除湿もされます)。次に加湿器で湿り気を足し、必要に応じてヒーターで温度を仕上げ、送風機でダクトへ押し出します。ただしこれはあくまで一例で、加湿を持たない機種、送風機をコイルより手前に置く機種、外気だけを処理する「外気処理空調機」など、実際の構成は用途によって変わります。

各室から戻ってきた空気(還気:RA)は、一部を屋外へ排気(EA)し、残りを外気と混ぜて再利用するのが一般的です。捨てる空気と取り入れる空気の間で熱を受け渡す「全熱交換器」を組み合わせれば、冷暖房のエネルギーを回収して省エネにつなげることもできます。

3. AHUを構成する主な部品

AHUの全体像は、「箱」「骨」「水」「頭脳」の4つで考えると整理しやすくなります。

  • 箱(ケーシング・パネル):部品を収める外装。断熱材を挟んだパネルで、外への熱の出入りと結露、空気漏れを防ぎます。
  • 骨(フレーム・架台):重い部品を支え、運搬や据付に耐える骨組み。
  • 中身(空気を処理する部品):フィルタ、コイル、加湿器・ヒーター、送風機と、それを回す駆動系(モーター・ベルト・軸受)。
  • 水(ドレン):コイルで生まれた結露水を受けて外へ流す仕組み。
  • 頭脳(制御・電装):センサで温度や湿度を測り、弁やモーターを操作して狙いの状態に保つ仕組み。

箱の中に部品が一列に並び、骨が支え、不要な水を排水する。これらを頭脳が調節している。これがAHUの基本の姿です。

エアハンドリングユニットの内部構成イメージ。架台の上のケーシングにフィルタ・送風機・コイル・加湿器などが並び、上部に制御盤、下部にドレン配管がある

4. 空気を「きれいにする・整える」部分

フィルタは、空気の入口でホコリを取る「空気のマスク」です。粗いゴミを取るプレフィルタ、細かな粒子を取る中性能フィルタ、クリーンルームなどで使われるHEPAフィルタと、目の細かさの違うものを段階的に組み合わせます。フィルタは使ううちに目詰まりして空気の通りにくさ(圧力損失)が増えるため、前後の圧力差を差圧計で見て交換時期を判断するのが基本です。

コイルは、中を流れる冷水・温水・蒸気・冷媒と空気との間で熱をやり取りする熱交換器です。能力は列数やフィンの間隔、空気の通り抜ける速さ(面風速。一般に2〜3m/s程度が目安とされます)などで決まります。空気を冷やすと、冷たいグラスの表面に水滴がつくのと同じように、空気中の水分が結露して取り除かれます。これが冷房時の除湿です。コイルの種類や選び方については、別の号で詳しくご紹介する予定です。

加湿器・ヒーターは、冬場に不足する湿り気と温度を補う部品です。加湿には、濡れた素材から水を蒸発させる気化式、水を霧状に吹く水噴霧式、蒸気を吹き込む蒸気式があり、必要な加湿量や衛生面から使い分けます。電気ヒーターは、風が止まった状態で通電すると過熱するため、送風機が動いていないときは入らないようにする安全回路(インターロック)が欠かせません。

そして見落とせないのがドレンです。コイルで生まれた結露水はドレンパンで受け、勾配をつけた配管で外へ流します。配管の途中には、機内の空気の圧力で水が押し戻されたり、臭気が入り込んだりしないよう、水をためて栓をする「封水トラップ」を設けます。冷やす → 水が出る → 受けて流す。部品は別々でも、水の流れでひとつにつながっています。

冷却コイルで空気を冷やすと結露水が生じ、下のドレンパンで受けてトラップ付きの配管から排水される様子

5. 空気を「送る」部分 ― 送風機と駆動系

整えた空気を各室まで届けるのが送風機(ファン)です。送風機の性能は、風量と静圧の関係を表した「特性曲線(PQ曲線)」で示されます。一方、ダクトやフィルタ、コイルなど空気の通り道にも「通りにくさ」があり、送風機の特性曲線とこの抵抗曲線が交わる点が、実際に運転される状態(動作点)になります。

送風機には「相似則」という便利な関係もあります。回転数を変えると、風量は回転数に比例し、静圧は回転数の2乗、必要な動力は3乗で変わります。たとえば回転数を1.1倍にすると、風量は1.1倍ですが動力は約1.33倍に増えます。逆に言えば、インバータで回転数を少し下げるだけで大きな省エネになるということです。

送風機を回すのが駆動系です。モーターの回転をプーリーとベルトで送風機の軸へ伝え、軸は軸受で支えます。自転車のペダル → チェーン → 車輪と同じ流れで、プーリーの径の比で回転数を調整できます。ベルトの張り具合や軸の芯出しがずれると、振動や騒音、部品の早期摩耗につながるため、据付時と定期点検時の確認が重要です。

6. AHUができるまで ― 設計の流れ

AHUの設計は、おおむね次のような流れで進みます。

ご要望の負荷・風量を指示して頂く → 機器を選定する → 図面・部品表を作成する → 製作 → 検査 → 据付・試運転

お客さまから「どの部屋を、何℃・何%に、どれくらいの清浄度で保ちたいか」という要求から出発し、部屋から取り除くべき熱量(負荷)と、それを運ぶのに必要な風量を計算していただき、コイルや送風機を選びます。外形や取り合いをご確認いただく承認図を経て、製作用の図面に落とし込み、工場で製作・検査したうえで現地に据え付けます。

機器の選定では、ダクトなど機外の抵抗(機外静圧)も見込んで送風機を決めます。こうした計算はあくまで出発点で、実際の設計では空気の状態や使用条件、メーカーの技術資料をもとに細かく詰めていきます。

空調機ができるまでの流れ。要求の打ち合わせ、計算、機器選定、図面、製作、検査、据付、試運転へと進む

7. 一カ所の変更が全体に波及する

AHUの部品は、それぞれが独立しているように見えて、実は強くつながっています。冷やせば水が出る、送れば回す、囲えば守る。たとえばコイルの能力を上げれば結露水が増えてドレンの設計が変わり、風量を増やせば送風機と駆動系、騒音対策、さらには電源や制御まで見直しが必要になります。ドミノのように、一カ所の変更が次々と他へ波及するのです。

だからこそ、空調機は部品ごとに最適化するのではなく、全体を見て設計することが大切です。既存の空調機を改修するときも同じで、「コイルだけ替えればよい」と思っていたら、実は送風機の能力が足りなかった、ということも起こり得ます。迷ったときは「空気の通る順」に立ち返り、前後の部品への影響を一つずつ確かめていくのが確実です。

コイル、ドレンパン、送風機、断熱パネル、制御盤がドミノのように連なり、一カ所の変更が全体へ波及することを表した図

8. オーダーメイドのAHUはニッシン工業へ

AHUは、置かれる場所や求められる温湿度・清浄度によって、最適な構成が一台ごとに変わる機械です。既製品では設置スペースに収まらない、特殊な環境に耐える材質が必要、といったご要望も少なくありません。

ニッシン工業では、エアハンドリングユニットや熱交換器コイルを、ご要望に合わせて一台ずつ設計・製作しています。サーバールーム冷却用、外気処理用、耐圧仕様、全ステンレス製の薬品・食品向けなど、特殊な条件にもオーダーでお応えしてきました。また、既存空調機のコイル交換や送風機の改修といった空調機改修工事も手がけています。「こんな条件で作れるか」「今の空調機をどう直せばよいか」という段階からでも構いません。お問い合わせ・技術相談・お見積り依頼をお気軽にお寄せください。

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